今さら聞けないコーヒーのはなし
コーヒーのトレンドと文化(後編)

 

「コーヒーのことをもっと知りたい」そんな声にお応えすべく、コーヒーボーイの焙煎担当・金近が誰にでもわかるコーヒーのはなしをお伝えするコーナーです。 今回は先月に引き続きコーヒーのトレンドと文化についてご紹介していきます。 前編はこちら→「コーヒーのトレンドと文化(前編)」

スペシャルティコーヒーの誕生

セカンドウェーブと同じ頃、コモディティがスタンダードだったコーヒー豆に変化が生じます。 19世紀以降コーヒー愛飲者が爆発的に増えたことで、コーヒー豆は価格競争にさらされることになりました。アメリカンコーヒーに代表されるような質よりも量の時代です。 当然のことながら、コーヒーを栽培する農園の運営は苦しく、厳しい労働環境と経営状況を長きにわたって強いられていました。 そのような苦境からの脱却を目指す農園からの働きと、アメリカで始まったコーヒーの品質向上を目指そうという動きが相まって、1980年ごろ「スペシャルティコーヒー」という新たなカテゴリーが誕生しました。 フェアトレードを成立させることでコーヒー豆の生育環境を整え、それまでの質より量の考え方からコーヒー豆にクオリティや特性をしっかりと持たせる方向へと転換させたのです。 その流れは日本にも波及して、90年代後半から、徐々に日本でもスペシャルティコーヒーが市場に出回るようになります。 *スペシャルティの定義は色々とありますが、簡単に説明すると「生産国においての栽培管理・収穫・生産処理・選別そして品質管理が適正になされ、欠点豆の混入が極めて少ない生豆であること」「適切な輸送と保管により、劣化のない状態で焙煎されて、欠点豆の混入が見られない焙煎豆であること」が挙げられます。 (スペシャルティの定義は多様になるコーヒー産業を背景に、少しずつ変更されています) 近年ではスペシャルティに引っ張られるようにして、コモディティにも品質管理がしっかりとした上質な豆が増え、コーヒーボーイで扱っているコモディティはどれもスペシャルティに引けを取らない厳選されたものを揃えています。

サードウェーブ

スペシャルティコーヒーの登場は、ブルーボトルコーヒーに代表される「サードウェーブ」を生み出すことになります。 コーヒーの価値に視点をおき、単なる日常の嗜好品ではなくクラフトとして捉える流れです。 コーヒーカルチャーの中ではサードウェーブを新しい概念だと捉える向きもありますが、日本のコーヒーに長年触れてきた僕にとっては、これは昭和の時代に繁栄した喫茶店文化が作ってきたものと違わないように感じています。 実際にブルーボトルコーヒーの創設者ジェームス・フリーマンは、日本のコーヒー文化に大きな影響を受けたと語っているように、豆の品質だけではなく焙煎や抽出(ドリップ)にまで細かく注視している点は、まさに日本のコーヒーそのものではないでしょうか。 さらに言えば、コーヒー一杯はおかわり自由な安価な飲み物ではなく、ワインのような価値(=製造過程に伴った対価がつく)がある飲み物としての地位を確立したとも言えます。 その点においても、70年台に一杯250円のコーヒーを提供していた日本は先を行っていたのではないでしょうか。 厳選されたコーヒー豆を丁寧に淹れていたからこその価格です。

新たな流れ

スペシャルティコーヒーが定着して30年余り、ここ10年ほどは嫌気発酵させた「アナエロビック」やフルーツなど他の味を加える「インフューズ」が人気になっています。 これらは精製など加工の段階で手を加えて味を整えることができるために広く支持されていますが、一部では従来のコーヒー豆の良さを損なうことを懸念する向きもあり、今後の動きを見守る必要がありそうです。 *「アナエロビック」や「インフューズ」に関しては「精製の話」で詳しく説明しています。 最近ではスペシャルティの中でも豆の品種や土地の特性によりフォーカスした豆や、選ばれた農園で採れた豆のみを扱う「マイクロロット」、さらにはその中でも特にスコアの高い「ナノロット」と言われる豆など、少数精鋭の方向に向かっている印象もあります。 また、日常的にコーヒーを飲む習慣があまり浸透していなかった中国や韓国では、サードウェーブの頃がコーヒー元年となっていて、コーヒーは高級品の扱いを受けているようです。 さらに中国ではコーヒー豆の栽培にも力を入れはじめていて、投資家が出資をした農園が次々と作られています。それだけ国内の需要が高まってきているのでしょう。 今後は中南米やアフリカ産と並んで、中国産のコーヒー豆が世界各国に流通する時代が来るかもしれませんね。 コーヒーボーイでは、創業当初(1961年)から大切にしている「テロワール」「キャラクター」を軸に、農園や生産者にもストーリーがある豆をラインナップにしています。 昭和の時代からコーヒーと共に居るコーヒーボーイだからこそ、流行りにのまれず確かなものを提供しなければいけないという使命感もあります。 複雑さが増す流行りの豆も横目で見つつ、コーヒーボーイらしいシンプルでキャラクターが立ったコーヒーを皆さんに楽しんでいただければ、それがコーヒーボーイのコーヒー文化なのかもしれません。

今さら聞けないコーヒーのはなし

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コーヒーのトレンドと文化(前編)

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